子どもを育てるようにくろずを育てる

“子どもの顔色”を見る毎日

 醸造技師たちは、くろず造りを子育てのようだといいます。ひとつひとつの壺の中のくろずは同じようには育ちません。それぞれの壺と向き合い、個性を見抜き大切に育てる必要があります。その中でも、特に大事な時期は仕込み直後。醸造技師たちは毎日壺のフタを開け、“子どもの顔色”を見ることを欠かしません。発酵の音に耳を傾け、くろずになると味や香り、色で出来具合を確かめます。五感すべてを使い、発酵から熟成の間、我が子を見守るごとく、壺に愛情を注ぎくろずを造りあげていくのです。

くろず造りの発祥の地

 壺は現在5万2千本あまり。そして坂元醸造の壺畑は全部で10ヶ所。その中に“坂元のくろず発祥の地”が今も残っています。米が手に入らない時期も、先代(現会長の父、坂元海蔵)がサツマイモで細々と酢造りを続けていた場所。坂元の生家の裏庭にある小さな壺畑は、現在も当時のまま、約700本の薩摩焼の壺が並んでいます。陶器の壺は大切に使えば、半永久的に使え、今でも現役で働いています。醸造技師があれやこれやと気をもんでも、くろずを造るのは壺と畑。昔から醸造技師たちは、毎日フタを開けて、子どもの成長を見守っているだけなのかもしれません。
二百年間、くろずが造り続けられている“聖地”。
長い熟成期間を経て“収穫”されるくろず。

“収穫”のよろこび

 くろずが商品として出せるところまでくると、いよいよ収穫です。農業に近い製法であるため、醸造技師たちは“収穫”という言葉を使います。ただ単に1年経ったから収穫する、というわけではありません。醸造技師は、味·色·香り、すべてを自分で確かめて、収穫を決めます。収穫時期は、手塩にかけて育てたくろずを皆さまの手元へお届けできるよろこびとともに、自分の元から巣立っていく寂しさを感じます。